■□ファントム□■                            (2006.7.23)  

1年ぶりの宝塚観劇です。
…振り返ってみれば、1年に1回くらいの割合で宝塚を観てはいるのですが、こいけっち(小池修一郎氏)以外の作品を観るのは初めてでございますよ。
ここで理解しました。あのくねくね微妙な動きをするダンスは、こいけっち作品の特徴らしい事に。
今回なかったもの!(小池氏の演出のときは、ヅカorヅカ以外とわず必ず…!)

ご存知、『オペラ座の怪人』の宝塚バージョン。
ただし!映画にもなったあの!宝塚バージョンではありません。原作の、です。
…どちらが原作により忠実かと云うと…どちらも結構っつか、かな〜りの割合で別物度合い高いです。
断言します。
『オペラ座の怪人』と『ファントム』はまったく全然別物です。


さて。
パリの街角で楽譜を売りつつ歌っていたクリスティーヌ・ダーエ(まずここが違う)は、金持ちでたらしのぼんぼんでオペラ座のパトロンのひとりであるフィリップ(伯爵)にみとめられ、オペラ座への招待状を書いてもらうわけです。
フィリップはいわば、ラウル的存在。その割りに全体に影が薄い(笑)。宝塚ではラウル・ファントム・クリスティーヌの三角関係の物語ではないのです…。
そんでここで歌うクリスティーヌの歌声ののびがいまいちで、なんか不安だったんですが…(伏線)。

オペラ座では地下にカルロッタが。
このカルロッタ、プリマドンナなのは同じですが、実力は×設定。オペラ座の新支配人の妻というポジションをめいっぱい利用して、プリマドンナの座におさまります。その彼女が「オペラ座のすべてを知りたい」っつって、いやがるブケーに案内させますが、ここでブケーはファントムに消されます。他舞台ではブケーは物語中盤で殺されるはずですが…。縊死ではなく、ファントムに地下に突き落とされ…(おそらくは溺死)。

このカルロッタ。映画でも舞台でもそうですが、かなり濃い。濃さではヅカがいちばんかも。すごいこのひと。濃いよ。すでに怪演の
域。ご本人も、すんごく楽しそうにステロタイプな意地悪成金を演じてらっしゃるように見受けられました。
話は前後しますが、フィナーレでの彼女への拍手は一段と高かったです。

旧支配人キャリエール。
地下に行ったというカルロッタに、「地下には幽霊がいる」「いくつかの約束ごとがある」と云うのですが、カルロッタも新支配人も一生に伏します。そのまま解雇され、その場から去ったキャリエール。
他舞台では、ここでキャリエールの出番は終わります…が、宝塚では準主役。ラウル‥もとい、フィリップの比ではないのです。

フィリップからキャリエール宛の紹介状を書いてもらい訪れたクリスティーヌですが、キャリエールは既に解雇。
歌のレッスンはしてもらえないのですが、カルロッタの衣装係として、オペラ座にとどまることを許されます。


地下。
なぜか仲良しなキャリエールとファントム。ファントムの本名をキャリエールは呼ぶし、ファントムはキャリエールに我が侭放題。
あまりの仲良しっぷりに、「あんたら腐ってるやろ?」と思いかけ、一瞬『腐女子』『ヅカファン』のベン図を脳裏に描きかけましたよ…。
そういや、ファントムの出番のときに、周囲で踊る一団があるのですが…てっきり雰囲気っつかファントムの心象とかを表す為の、舞台的演出上のものかと思っていたのですが、ここで実在の人物(笑)である事が判明。「浮浪児だった彼らを拾って食べさせ…」。そうか、彼らはいわばファントムダンサーズ。ファントム隊だったのか(役名は『従者』)。
いろんな仕掛けをするのに、人手がいるのは理解しますが…こんだけ不審人物がうようよいるオペラ座地下ってのは、どうよ。

衣装係の仕事をしながら歌うクリスティーヌの声を聞いたファントムは、彼女にレッスンをすることにしたのです。

リハーサルにファントムが紛れ込んでたりで、オペラ座の団員達が混乱しまくる中、冒頭で殺されたブーケの遺体が発見されるんですが、縊死体を見せるのとそれと、どちらがやばいんだろう!だってファントムに突き落とされてから時間経ってるし、多分もうでろどろの…(自粛)。

レッスン中のファントムとクリスティーヌ。
ここでクリスティーヌの声ののびが、はじめと全然違います。そうか、そのために登場シーンでの歌を抑えてたのか。
歌えるひとにとって、これはかなりきついのではないかと思うんです。「ウマい」けど「いまひとつ」な感じにしなくっちゃ、あとが生きてこないわけですから。
で、ファントムはクリスティーヌに、オペラ座前のビストロで行われる団員のコンテストに出場することを勧めます。

お約束どおり。
シンデレラばりのデビューを果たしたクリスティーヌは、正式に団員となります。カルロッタが、「主役を務めろ」というあたり、腹黒さ
マックス。

衣装係からいっそくとびにプリマドンナの座を射止めたクリスティーヌに、ぼんぼんフィリップは愛を告白。それを見つめるファントム。
ですが、ここのファントムはただひたすら悲しむのみ。怒りモードというより、既に何もかも諦めっぽい。

えーと。
クスリを取り替えられて、声が出なくなり舞台で立ち往生するのは、映画等ではカルロッタでした。
宝塚ではクリスティーヌ。緊張をほぐす飲み物、といって、カルロッタが飲ませたという流れ。

ここで。
舞台が暗転しているとき、なぜか指揮者にスポットライトがあたってたんですね。宝塚は生オケ。今日の指揮者は女性でした。
ちょっと背が高いような気がするけどねえ、と思っていたら…舞台上の舞台が進行し、クリスティーヌの危機にオケボックスから飛び出す指揮者…ではなく、ファントム。この演出はたいへん面白い、と思いました。銀橋をうまいこと使ってます。指揮者のヘアスタイルとファントムのソレとが似ているのも、もしかしたら演出か。バック禿げな指揮者だったら…(やめなさい)。
シャンデリア落ちもここ。あまり迫力ありません。冒頭のオークションにかけられるシャンデリアのシーンがないからでしょうか。

クリスティーヌを捜し求めるフィリップから逃れるように、彼女を連れ去るファントム。
ここでやっぱり姫だっこで退場。ええ、ファントムがクリスティーヌを、です。逆じゃないです。前も思いましたが、トップの男役には、娘役を姫抱っこできなければならない、という掟があるのだろうか。大変だよ、あれ。


で、好きなゴンドラのシーン。
ろうそくがこれでもか、と灯る中、ゴンドラは…動きませんよ!えええええええええええ!


休憩中、抽選でキャリエール役の方のサイン色紙が当たった事が判明(笑)。

ゴンドラのシーンではじまり。
今度はゴンドラ、動きます。が、ろうそくは殆どありません。ついでにファントムは櫂も持ってません。何で動くんだ。それは聞かないお約束。

またもキャリエール登場。クリスティーヌを地上に戻せっつうのですが、恋は盲目なファントムは聞く耳ナッシング。
ファントムが姿を消したあと、今度はキャリエールはクリスティーヌに逃げろ、と説得。恋ゆえかなんなのか、やっぱり聞く耳…な彼女に、キャリエールがファントムの過去を。


キャリエールはファントムの父(ファントムは知らない)。←びっくり。

原作等では、ファントムの醜さゆえに母親も父親も彼を愛さず捨てたのですが、宝塚は違います。
母親は、ファントムを美しい、と思い続け。おかげでファントムはどえらいマザコンに…!
(一説には、ホ○よりもマザコンの方が女心をそそるそうです。そのせいだろうか、この設定)
はじめて己の顔の醜さを知ったファントムを哀れんで、キャリエールは彼に仮面を与えた、と。
(原作では、顔を見たくないと思った母親がファントムに仮面をつけたはず)


このあたりから、周囲にはすすり泣きの声が!まじです。つれも泣いてました。彼女は「2幕は泣きます!」と断言してたんですが…いやあ、これほど泣いてるとは。
すみませんね、感動が薄いたちで。だって泣くところだとは思えなかったんだもん。


「あのひとは思いやりのあるひと。わたしには理解できる」
クリスティーヌはキャリエールの説得に耳を貸さないわけです。

その頃、地上ではさっくりとファントムによるカルロッタ殺害。

地下に戻ったファントムに、「あなたの真実の姿が知りたい」と仮面をはずすように頼むクリスティーヌ。
このクリスティーヌは大変お行儀がよろしい。他舞台だとね、こっそり仮面をひっぺがすからね。
ですが、やっぱり素顔にショックを受け逃げ出すクリスティーヌ。おいおい。
わかっててもショックなファントムが哀れ。

ここから大混乱。
地上に戻りフィリップに助けを求めるクリスティーヌ。キャリエールはここでも、「オペラ座から離れろ」とクリスティーヌに云うのですが、「逃げ出したことをあやまりたい」という彼女。が、追ってきたファントムと彼を追う警官達、フィリップとの乱闘で、ファントムは怪我をおい、地下に逃げ去ります。

ああ、ここで「首の高さに手を上げて」ってのを聞きたかったですが、ヅカのファントムは縄を使わないのでありません。
マダム・ジリが出てないんだよ…(メグという役名はありますが、メグ・ジリかどうかは不明)!

キャリエールは装置のかげにファントムを隠し、逃がそうとするのですが…そこでファントムに「もしものときは殺して欲しい」と頼まれます。

ここで父と子が理解しあうシーン。
ファントムもうっすらとキャリエールが実父である、と感じていたもよう。
「この顔ではテノール歌手は無理だな」「バリトン歌手もな」…この台詞まわしはいいなあ。
なんかね、全体的に恋愛そのものというより、ファントムの内面にかなりスポットライト当たってます。だからフィリップが割りを
食うんだ(笑
あとは肉親愛ですかね。衣装や装置は派手ですが、テーマとしては地味めかもしれません。ヅカにしては。

逃げる途中で見つかったファントムは生け捕りにされかけた時に、父に「頼みを聞いてくれ」。


ここでようやく理解しあった父に、息子は撃たれて目を閉じるという結末。
他舞台ではファントムの生死不明、映画では生きていたわけですけど、ここでははっきりと。

最後に、クリスティーヌが地下に降りて、ファントムを偲んで幕。


全体的に。
フィリップ(ラウル)の動きは、なんだか中途半端でした。いっそいなくても成り立つよこの舞台。
クリスティーヌは、他舞台よりおりこうそうだった。
反面、ファントムはおばかだと。マザコンでオタクで自己顕示欲高し。性格は歪んでますが、それでもそれなりの救いがあったわけ
で。
考えてみるとですね、これってハッピーエンドじゃないんですよね。
フィナーレの華やかさにうっかり目がくらみますが。