■□エリザベート〜愛と死の輪舞□■ 2005.03.05)

昨年、さんざん大騒ぎしたミュージカル『エリザベート』の宝塚版。
正確には、初演は宝塚の方が先。音楽は同じもの。
ストーリーは、田舎貴族のお転婆娘が、オーストリー皇帝の皇后に玉の輿。華々しい影につきまとう死の影〜といった感じ。
重ねがさね申し上げますが、同じですよ、東宝版と。

昨年の東宝版。
とっても腐っておりました。友人曰く「腐女子にやさしい舞台」。オトコ同士の生チューはあるわ、市の帝王トート閣下の僕(トート・ダンサーズ)はオトコばかりで熱〜く熱〜く絡み合うホットダンスを展開するわ、といった(大笑)。
では宝塚は?上記のことをするのは、女ばかりですよ。男のふりをした女たちが絡み合うわけですよ。東宝版とどっちが腐っているのかアブナいのか倒錯的なのかが問題です(そうか?)。『清く正しく美しく』のモットーはどうなる。
それから、あのウィーンミュージカルならではの「凝りに凝った」アンサンブルは大丈夫なの〜?

…とまあ、そんなこんなを抱えての『エリザベート』。
大雑把に云うと、大筋展開はまんま。台詞は説明的に。場面の入替・削除アリ。歌はほぼ同じ。振り付けはところどころ一緒。
舞台装置は違います。
パンフレット。トート閣下(今回、退団公演)の爪がすごいよ!全長何cm?ってな具合。あれで抱きしめられたら刺さるがな!

開幕早々登場のルキーニ。首に首吊り縄はかかっておりません。影から聞こえる裁判官の声とのやり取りですが、東宝より説明的で多く語りますが、例の「ケツでもほってやろうか」な台詞は削除。清く正しく美しく、ですから!
死霊たち+黒天使(東宝で云うところの『トート・ダンサーズ』。宝塚ではあまり踊りません)の他に顔まで布で被った全身真っ白な方々がうようよ。…彫像だそうです。これは宝塚オリジナル?
そしてちゃんと死霊には「ちびルド」もおりました。〜娘役の方だと思います(トート役の生徒さんの実妹だそう)〜。さすがにルキーニによる抱っこはありませんでした。
で、なぜかトート閣下と手下の黒天使ってば、登場時に羽根しょってるよ。

エリザベート登場。柩の中から死に装束ではなく、黒天使が運んできた肖像画から「少女時代」で飛び出し、詩の朗読。
ここでは母親がちらりと出てきた後、父のマックス公爵との「パパみたいになりたい」に入ります。…このパパ、フランス語の家庭教師との浮気はしてませんでした。清く正しく美しく、ですから!
親戚が集まってきた時の歌の掛けあいは前半でカット。ライバル心を燃やしてた親戚のお嬢さんは、宝塚ではお嬢ちゃんに(笑)。
その後、エリザベートが死にかけるのは、先日の東宝では「木から落ちた」のですが、今回「綱渡りの綱から落ちた」。ちょっと待て。あれは足を踏み外したっつうより、綱を支えていた弟どもが手を離したのが原因では…?

死にかけエリザ。東宝では自分の状況が判らず虚ろなままの周囲で、トート閣下が蠢いてストーカー宣言をかますのですが、ヅカエリザは「黄泉の国?死にたくない」と状況把握が出来とります。ちなみに黒天使は、エリザをお姫様抱っこで登場。くどいようですが、どっちも女性。

その後のフランツ皇帝登場シーンの「謁見の間」は東宝と同じ。
そのままお見合いシーン。東宝では父はトンズラこいてるのに、宝塚では両親にエリザベート、その姉が。家族の一大事は家族揃って(笑)。清く正しく美しくなんですよ!
双方の母親の思惑を思いっきり台無しにして結ばれるフランツとエリザベートのデュエット。
東宝では「私は自由に生きるの♪」「皇帝にも皇后にも自由は無い♪」と結婚を決めた癖に、実はお互いの意思の疎通はなってなくって、今後の危機を暗示してる感じなのですが、宝塚では「あなたを支えついていくわ♪」「うん、二人なら大丈夫♪」という幸せそのもの、愛それは〜な歌詞に変わってました。この方があとのすれ違いがきくのかしら?まあ、この演出だとお互いがすれ違っていくのがきわだつかも。

結婚式から舞踏会への展開はほぼ同じ。ただ、エリザベートは舞台上で婚礼衣装にお召しかえはいたしません。婚礼衣装のベールで参列者をぐるぐる巻き、もありません。
マックス公爵と皇后の「いがみあい」ソングはまんま。舞踏会シーンで、東宝ではエリザはフランツ相手に踊っていたハズが気がついたら相手がトートに変わってるわ、脇ではトート隊が絡みあう熱すぎて腐ったホットダンスを展開してるわ、って調子でしたが、宝塚のトート閣下は礼儀正しい。きちんとダンスを申し込んでます。エリザも「あなたは?」ってな問いかけしてるし。トートダンサーズも普通に個々で踊ってます。絡んでない。清く(以下略)ですから!

初夜明けの寝室に、姑なだれこみシーン(ああ、身も蓋も無い)。
東宝ではベッドのシーツを引き剥がして「痕跡」チェックをする姑・皇太后ゾフィー(とお付きの女官)。
宝塚ではそこまでしません。歌は同じなんですが。やっぱり(以下略)。
その後「いっしょに〜」と思った夫フランツが自分より姑の肩を持ったことに絶望シーン。その前に「自分で生きていく」ってな歌が入ってるのに自殺しかけるな!

ルキーニによる状況説明。ここでひと言。宝塚のルキーニは東宝と比べ、見せ場がありません。あまりにも勿体無い。出番も減ってます。オモチャの小鳥を飛ばしたり、色んな衣装に着替えて、方々の場面に紛れ込んで「その場にいた人兼ナレーション」的役割だったのに、宝塚では…(がっくし)。面白い役だけに、あまりにも勿体無くって。立ち位置が中途半端。

ここで子供を姑に奪われたものの(ここでエリザは『夫も敵』宣言。結婚数年で破局同然。「あんなに一緒だったのに〜♪」)、「ハンガリーに同行する」を条件に取り返し、夫婦揃ってハンガリーに。
登場のエルマー。東宝では既に「テロリスト」でしたが、ここではまだ「抗議行動をおこす」レベル。暗殺を企ててはおらず、単にオーストリー皇帝夫婦の前に、ハンガリーの旗を振って見せよう、レベル。逃走中にトート隊に匿われるのではなく、トートがテロリストへの道を示唆するかたちに。そしてエリザベートがここで娘を亡くしたシーンはありません。

ウィーンのカフェ。登場人物は塚らしく半分はドレスの女性(東宝は男性だけ)。歌は変わっていて、後の「エステ」の歌詞とかぶっていて「?」。長さも半分くらい。

「ミルク」のシーン。ウィーンの市民が「ミルク不足」から皇帝夫妻に対する怒りを歌い上げるコーラス及びダンス。まずルキーニが導入、エルマーが煽る、というのではなく、おい!トート閣下もアジテーションしとるぞ〜!!で、踊りません。宝塚。全員で銀橋に並んで歌ってる。ミルクボトルもがちゃがちゃ云わせません。物足りない。好きなシーンなのに。

で、ここでルキーニはあっさり退場、エステシーン。
大勢メイドさんが!と思いきやあっさり引っ込んで「?」と思ったら、メイドさんのあの延々とエステ内容を語る歌は割愛。だから、カフェで歌ってたんだ。ちなみに「(シャンプーは)卵の白身にコニャックを3杯」でお終い(笑)。本当にね〜このあと延々続くのに。折角可愛らしい娘役をたんとかかえてるんだから、見たかったよ。

「エリザベート〜」と幕切れにトート閣下が切々と歌い上げた後の2幕。
「キッチュ」のシーン。東宝ではここで「エリザベートグッズ」を売りながらルキーニが歌うのですが、これは後に挿入されます。代わりに違う内容の「キッチュ」。「エリザベートは世界中の大使にその国の美人の写真を送らせ、自分の美貌を確かめた」ってなものですが、これが楽しい。世界各国の民族衣装の女性がステップを踏んでくれます。日本からは芸者さん。着物に草履で踏むダンスステップは大層かわいらしゅうございましてよ。ただひと言いわせて貰うならば〜「キルトは男性の衣装です!」(爆)。

ブタペストでの戴冠式。冠を被せる大司教は、実はトート閣下です。思わず「ルパン3世カリオストロの城」を(違)。皇帝夫妻が馬車に乗り込むシーンも馬車で鞭を振るうことも無いです。歌は同じですが。ここで「今の内だけだぜ、お前が微笑んでいられるのは」とトート閣下がスタッカートも楽しく歌い上げるのに、リズムと音程をはずして…ううん、ここ難しいのかな?山口祐一郎は大丈夫でしたが、内野聖陽ははずしてたし。

ちびルドによる「ママ、どこなの?」。これも歌詞は一緒ですが、空っぽの部屋で切々と。トート閣下が一人でガキをたらしこみに乗り込んでます。このたらし方…あやしすぎ(笑)。すいません、相手は子供ですから(笑)。

皇太后と取りまきの悪巧み。ゾフィー皇太后、もっと暴れて〜って感じですが…これは場面が長くなってます。東宝では「紳士の社交場から美人を見つけて皇帝に」レベル。宝塚ではより悪巧みが具体的に(笑)。
悪巧み〜紳士の社交場をそっくりこっそり王宮に、ってことだったんですが…「趣向をこらした昼食会」と云って皇帝を招きます。待て、真昼間からサカるんか、おっさん!ついでにそれは俗にいう「女体盛」状態(大笑)。マダム・ヴォルツのソロの歌詞も、「自分とこの女の紹介」は東宝と同じなものの、他は「食堂」にふさわしい「好きなように」「思うままに味付けて」「食っちゃえ♪」なノリ。ただ皇帝が相手に選んだbPが「性病持ち」だという設定はナシ。だから(以下略)。

東宝では「女→皇帝→」経路で性病に感染したエリザベートが、トート扮する医者に事実を告げられ、「裏切られた、こんちくしょー、死んでやる!」なんですが、宝塚では「過度のダイエットのしすぎ」でぶっ倒れたエリザベートの元にやってきたトート扮する医者が「証拠写真」をつきつけ、そこで同じ展開に。やっぱり…。tねわれたわ。『盗ったもんは盗られる』て」な台詞。他にも「繰り返し」台詞やシーンが登場しますが〜つまりはこの人の人生は、ある意味「繰り返し」だったのかな、と。

東宝では精神病院の設定が、普通の病院に。狂った音程のバイオリンを弾くのも患者ではなく看護婦になってます。自分が「エリザベート」だと思い込んでいる患者も登場しますが、ちと弱い。彼女は彼女だけで世界を作ってますが、東宝では患者たちも一緒にその世界を作ってましたから。このあたりはどうなんだろう。妄想が個人だけなのと、周囲に影響を及ぼすのと。正常で孤独なエリザベートとの対比を際立たせようと思うと、「精神病院」で世界作ってるほうが怖いんだけど。それとも「自分はともかく周囲は正常」ってことなのか。

大人になったルドルフ皇太子。東宝では「堅実質素」な軍服が、さすがに華やかに。父との対立があるのですが、背景が薄い。
父に「ウィーンに台頭しているドイツ民族主義者たち」のことを語るシーンはありません。ナチスの旗も、ナチスの制服を着たルキーニもなし。エルマーと行動を共にするルドルフのシーン。「ハンガリーの王冠が待ってる♪」とエルマーが歌った後、本当にルドルフはハンガリーの王冠をかぶるのですよ。ただ、すぐにソレが黒天使に奪われるあたり象徴的(この演出は宝塚のみ)。で、この後「首謀者の一人」として暴動をおこしてます(東宝では皇帝の暗殺未遂)。つかまるのはルドルフ一人で、名乗るまでも無く軍人に「殿下」と(東宝では他に数名つかまり、軍人に誰何され名乗ってそれと知られる)。

久しぶりに会う母とも理解しあえず、ルドルフが自殺するシーン.。全編通じての「腐れ」の山場だったものが、宝塚ではどうなるか。
東宝→トートダンサーズに荒々しく翻弄され、いつの間にか軍服を脱がされ、白シャツ1枚に(『輪姦』と表現した人あり)。
宝塚→黒天使にいきなり軍服を脱がされ色シャツ1枚になるが、手荒には扱われず。
東宝→トートにいきなり後頭部を鷲掴まれ、キスされる。キスしながら、トートは片手でルドルフに銃を渡し、キスの後にルドルフはその銃で頭を撃ち抜く。
宝塚→トートに背後から抱きしめられ、銃を渡される。銃を持った手をトートが後から支え、そのまま頭を撃ち抜かせる形に持っていき、発砲。事切れたルドルフにトートがキス。
〜とまあ、こういう感じで。

ルドルフの葬儀のシーンはまんま。柩から出てくるトート閣下のやせ我慢(?)も同じ。ただ、悲嘆にくれるエリザベートの写真をルキーニが撮るシーンはありません。

ここで、「キッチュ」その2。ルキーニが「エリザベート」グッズを売りさばきます〜。不思議なのはあの平べったい箱からマグカップが後から後から出てくること。う〜ん、ドラ○もん。

前後しますが、エリザベートが旅先で詩を書こうとして、父の魂を対話する場面があったのですが、割愛されてました。男役主体だからな〜。

ラストのアンサンブル。「トート閣下指揮によるオペラ『死』」はだいぶ変わってます。まず「オペラ」という云いまわしも無く、エリザベートの血に繋がる者達の悲惨な末路〜焼死・発狂・銃殺など〜は語られず、トートvsフランツのエリザベートを巡る歌の掛け合いもかなり薄い。トートが凶器をルキーニに渡すシーンも、トートがルキーニを呼ぶのは無く、ルキーニが「頂戴」って感じでトートに近づきます。

エリザベート暗殺も、「偉いやつなら誰でも良かった。来る筈のやつがこなかったから、エリザベートを殺した」のではなく、最初からエリザベートを狙っていたように変わってます。

死後トートとエリザベートは結ばれて〜なラストは一緒。ただトート閣下ってば、いきなり白いお衣装ですよう!婚礼衣装なんですかッ?いや〜ん。

二人がたっぷりたかれたスモークの中で消えるや否や、いきなりフィナーレ。
フィナーレも塚のウリっすよう!でも余韻も欲しい。
前回の宝塚「薔薇の封印」では、フィナーレで本編で使わなかった(一般的スタンダードナンバー)があったり、後ろの電飾に主演にトップ男役の愛称がローマ字でてかてか光ったりして吃驚したんですが〜今回はそういうこともなく。
「キッチュ」でラインダンスを踊るのは楽しかった。こんなに合うとは思わなかった。

宝塚らしく、トート閣下役の生徒さんはラストに羽をしょって登場。それが生半可なサイズじゃない。よく漫画で「花背負って登場」ってコマがありますが、その花が羽根になったと想像してくれたまい。いや凄いよ。重そうだよ。ひっくり返ったら、一人で起き上がれなさそうな。

…ああ、落ち着いていたはずの「エリザベート」熱が再燃。
秋の東京に行きたいよう(東宝版)。