|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
■□緋嘉見学園節分大会「鬼は内?!福は外?」□■
|
(2003.2.11)
|
|

|
|
|
アイドルタレントである水貴は、芸能活動が忙しく授業にもたまにしか出てこない。だが、学校の行事には必ず姿を見せているのだ。
たとえ、生番組中だろうと、コンサートの開演中だろうと(ファンをほっといて;;;)必ず現れる。それほど澪姫への忠誠心は熱い。
一馬たちを見回して水貴は声をあげる。
「君たち、これからみお姫様のお言葉をいただけるんだぞ! 少し静かにしたらどうだ。それに不破! ”様” をつけろ! 気安く呼ぶことは僕が許さない!」
顔を赤くして、一気に叫び終えた水貴を四人は冷ややかに眺める。
(おまえのほうがうるさいんだよ)
(なんで、生徒会長に様をつけなくちゃならんのだ)
(水貴もまだまだですね)
(――腹減った・・・・・・)
「皆さまこんにちは。私が緋嘉見学園陽炎会、第十一代生徒会長澪姫でございます」
いつのまにか前に立ち、マイクを握り締めていた生徒会長澪姫は挨拶をした。
「あの会長さん、いつも何かある度同じ事いうんだよなー」
やれやれ――と不破が言い終えると同時に、
シュバッ!
風を切る音とともに、不破の首筋に冷たい物が当てられている。
「・・・・・・水貴、おまえ『忍び』科受けてないのに、何で”くない”持っているんだ?」
くないを首筋にあてがわれているため、後ろを振り向けない不破は、内心冷や汗をたらしながら問うた。
「それ以上変なことを言ったら、僕が許さない!」
表情はわからないが、そのせりふからはとてつもなく恐ろしい顔をしているんだろうなーと、不破は思った。
「そこ何をしているのですか。水貴騒がしいですよ」
マイク越しに澪姫の声が響いてきた。
その声に慌ててくないを懐にしまいこむと、水貴は姿勢をただし自分の場所へと戻った。
「・・・それでは、今年もおいしく太巻きをいただきましょうね」
澪姫が極上の笑みを全校生徒に向けると、あちらこちらから感嘆のため息が聞こえてきた。もちろん水貴も例外ではない。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
今度は澪姫と入れ替わりに、再び弍長先生が前に立った。
「それでは、そろそろはじめるぞ」
「ああ〜とうとう始まる・・・」
一馬は太巻きを握り締め震えてる。
「おいおい、あんなのほんの一瞬我慢すればいいだけだろ?」
「そうですよ一馬、腹を据えましょう」
不破・不知火が交互に慰める。
その言葉にも、恨めしそうな視線を一馬は送る。
「・・・だけど、必要ないだろう? あんなこと――」
「俺腹減った」
まるっきり会話を聞いてないのか、豪希は右手の太巻きを見つめる。
「おまえ・・・さっきからそればっかだな」
ため息疲れの不破。
「よしっ、いいか今年の恵方は ”南南東” だ。 この学園からすると――」
ビシッ
弍長先生は勢いよく、ある場所を右手で指差した。
「周布山にある物見小屋と、虎牙海ダム管理室の間が南南東だ!」
声高らかに弍長先生は告げる。しかも、どこか誇らしげに。
「――弍長先生はりきってんなあ・・・」
感心したように不破が言った。
「あの先生はいつもああだろう。 っていうかなんだよその微妙な方位は!」
ただでさえいやな気持ちなのに、一馬のイライラは最頂点に達しつつあった。
「さあ、みんなあちらを向け!先生の合図と同時に食べるんだぞ。もちろん食べ終わるまで私語は禁止!願い事がかなわなくなるからな」
意気揚揚と言う弍長先生に従い、生徒全員南南東を向く。
「お茶もちゃんと用意してあるか? あとポーズも忘れずにな!」
うれしそうな先生を尻目に、一馬はつぶやく。
「・・・もういいから、さっさと終わらせたい」
「恥ずかしいのは君だけじゃないよ。朱童――」
豪希の後ろにいる水貴も、先ほどまでの態度と一変しうっすらと汗が浮かんでいる。
「何で、アイドルの僕が・・・」
そんあ生徒たちの心など、まるっきり知らないであろう弍長先生は、太巻きを手に構えた。
「いいか、毎年言っているが ”いっせーいの” でポーズだ! そして ”ドン!” で食べ始めるんだぞ。 いくぞ・・・」
いっせーいのドンなんて、まぬけなかけ声のことは、みんな気にはしていられない。そんなのよりも、自分たちが取らされるポーズのことの方が重要である。
ごくり――
誰かがつばを飲み込んだ音が聞こえた。これから起こることに緊張しているのだろう。間違っても、豪希が腹をすかせ過ぎたて、生唾を飲んだ音ではないと思いたい。
「・・・一馬始まるぞ」
「ああ・・・
「いよいよですね」
「早く食わせろ」
「・・・早く終わってくれ――」
それぞれが思うなか、弍長先生が右手を動かした。
大きく息を吸い込む。
「・・・いっせーいの」
|
|
ザッ!!
その言葉に、全校生徒が足を肩幅に開き、太巻きを持っていない手を腰にやる。無論女子も。そして足元にはお〜〇お茶が置かれている。
「ドンッ!!!」
いっせいに太巻きを口にはこび、後はひたすら黙って食べるだけ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
食べ終わるまで話ができないので、なんとも不思議なムードだ。
一馬は顔を赤くし、とにかく早く食べようと必死だ。
不破・不知火はいたって普通に、のんびり太巻きを食している。味わうかのように。
(せっかく女の子達が作ってくれたのに、急いで食べたら悪いもんな)
(・・・やっぱり、手作りっていいですね)
豪希も一馬に負けないくらい(いやそれ以上かも)のスピードで、太巻きを完食しつつあった。残すは3分の1ってところだろうか。
水貴にいたっては、あまりの恥ずかしさにうつむきながらもそもそ食べつづけていた。
(――こんな姿みお姫様に見られたくない)
そんな彼の心配は無用だった。
なぜなら、みお姫は "いっせーいの" の合図と同時に、彼女の親衛隊数人と校庭を後にしていた。
みお姫いわく、
「私がいたら生徒が落ち着かないでしょうから、会長室でいただきますわ」
本音は(あんな太巻きにかぶりついている姿、坊主科の先生に見せられませんわ)
ここにも、ひとつ恋心が。
数分すると、どうにか全校生徒が食べ終えた。
皆、なぜか一様にぐったりとしている。ただでさえ、。黙って食べると言う行為は疲れるのに、その上無意味なポーズまで取らされるのである。
「はあっ食い終わったぞ・・・」
疲労の色は濃いものの、一馬の顔にはどこかやり遂げた男の顔があった。
「うまかった」
太巻きをつかんでいた右手の指を、豪希がぺろぺろとなめているとどこからかシャッター音が聞こえた。 豪希が音の聞こえたほうに目をやると、長身の影が二つ植え込みの間からのぞいている。
「?・・・あっ!父上、母上!」
「ご、豪希元気にやっているか?」
ぎこちない笑みで、母親(?)である(でも男)蘭丸がのっそり出てきた。続いて父親である力丸も、下を向き現れた。
「何をされているんですか?」
丁寧な言葉遣いとは裏腹に、冷え切った笑みを豪希は浮かべている。
「い、いやちょっと買い物にな・・。じゃ、またな」
そういうと蘭丸は、力丸の手を引き走り去っていってしまった。
「だからよせと言ったんだ。豪希がすごい怖い顔していたぞ」
逃げ帰る道すがら、力丸は言った。
蘭丸はそんなことなど耳に入れていない風で、隠しておいたカメラを握り締める。
「力丸、よかったな。これでまた豪希アルバムに、記念の一枚が増えたぞ]
るんるんという言葉が、周りに浮かんで見えそうなほど、蘭丸は浮かれていた。
「・・・・・・・・・」
「しかし、あんな無防備な姿をあまり人前で見せないように、今度帰省したときに注意しておかなければな」
至極まじめに語る蘭丸に、力丸は言う元気をなくしていた。
二人が消え去った後、間をおき不破がしゃべり出した。
「・・・ははっ、おまえん家の親って、相変わらず面白いなー」
さすがに変わってるというのは、悪いと思ったのかそんな形容詞を使ってきた。
「――まあね・・・」
(今度帰ったとき、覚えていろよ!)
青い瞳を、さらに深い青色に変えていた。
|
|
やっとのことで、太巻き食べ大会も終わり(正式には節分大会だが)、生徒が校舎に戻るとき、歩いていた一馬たちの前に、弍長先生が通りかかった。
「先生!」
不破が呼び止める。
「おう、不破! 太巻きうまかったな」
満面の笑みでこちらを向いた。
「そうっすね、ところで聞きたいことがあるんすけど・・・」
「ん?なんだ」
「あの、太巻き食べるときの腰に手を当てるポーズとかって、先生が考えたんすか?」
その質問に、大慌てで首を振った。
「とんでもない! 俺があんな高尚なこと考えられると思うか?」
(――あれのどこが、高尚なんだ?)
五人全員がそう思ったことに間違いはなかった。
「じゃあ、誰が考えたんです?」
眉間に深〜いしわを寄せて、水貴が一歩前に出る。
事と次第によっては、その人物に何かしでかすかもしれない凄みがある。
(僕に恥をかかせて・・・)
澪姫がいなかったことには、まだ気づいていないみたいだ。
「ああ、俺と同級でこの学園の1回目の卒業生だ」
懐かしいなーと、腕を組み昔を思い出しているであろう弍長先生を尻目に、5人はそれぞれ考えをめぐらせる。
(くそっ、そいつのおかげで・・・俺たちはあんな恥ずかしい思いを)
(――う〜ん、まさか先輩が考えたとは、てっきり弍長先生が考えたと・・・)
(絶対に探し出してやる――)
(あのポーズを考えたときの、心境をぜひとも聞きたいですね)
(・・・うちの親と同類か)
黙りこんだ一馬たちに気づき、弍長先生は顔を覗き込む。
「なんだ、そんな顔しなくても、俺が今度会わせてやるぞ」
その申し出に、「会いたくない!」「興味がありますねー」「ぜひ、会わせてもらいましょうか」「じっくりと意見を交わしたいですね」「見たくもないな」
と、5つの意見が出たのは言うまでもない。
|
|
|
|
「SHINE'S CLUB」のHIKARUさまの「リクエストどうぞ」とのお言葉に甘えて
お願いした『現代版緋嘉見』ネタ。時期が時期だったので、「節分とかどうでしょう」で
頂いたお話。
こちらでのUPが遅れたのはスベテ!私の至らないところでございまする(反省)。
蘭さんの活躍(?!)ぶりは「バカッ母暴走篇」と副題をつけたいくらい(つけるな)で楽しい。
HIKARUさまのサイトには(リンクページからどうぞ〜♪)には、基本設定もUPされて
おりますので、併せてお読みいただくとよりお楽しみ頂けます!
んで、シリーズ化のご予定もおありとのことですので、皆さまチェックですわよ?
|
|