■□ごーきくんの節分□■   (2006.02.06)
 


今日は二月三日「節分」です。みんなで「鬼は外、福は内」と言いながら豆まきをする日です。

 日が暮れて家々の明かりが灯る頃になると、町のあちこちから大きな声が聞こえてきました。

 「鬼はー外!福はー内!!」

 でも、町で二番目に大きな久鬼さん家だけはとても静かです。豆をまく音も、掛け声もありません。だれも豆まきをしないからです。

 久鬼さん家の主、月抄さまは魔性のもの、闇の者なのです。そんな主に仕えているのもやはり闇の者たちでしたので、自分たちと同属の鬼を追い出すことなんて、この家では誰もしないのでした。それに豆を年の数だけ食べるなんて、誰もできっこありません。

 そんな久鬼さん家には、一人の男の子がいました。

 名前は「ごーき」。真っ赤な髪と青い瞳の元気な男の子です。

 ごーきは人間でした。家の中で他のみんなは魔性のものなのに、ごーきだけは人間の子供なのです。なんだか不思議ですね。

 だけど、ごーき自身がそれを不思議に思うことはありませんでした。

 先日、家の主である月抄さまが、ごーきの思考を封印してしまったからです。

 今のごーきは家の外から楽しげな声が聞こえても、家の中で何も音がしなくても、なんとも思いません。ただ、声のする方に時折耳をそばだてるだけでした。

 「………気になっているのだな」

 そう言ったのは蘭丸でした。いつもごーきの世話をしている蘭丸には、表情が全く変わらなくてもごーきの気持ちが分かるのです。そして、ごーきが「今日

は何か特別な日」だと感じていることも、蘭丸にはちゃんと分かっていました。

 「………ああ」

 そう言ったのは力丸でした。いつもごーきと蘭丸のことを想っている力丸には、言葉にしなくても二人の気持ちがよく分かるのです。そして、節分なのに豆まきができない代わりに、「他の何か特別なこと」をして二人を安心させようと考えていました。

 「ごーき、夕餉だよ」

 力丸に呼ばれてごーきが食卓につくと、そこには三本の太巻きがありました。

 いつもはいくつかに切り分けてある太巻きが、包丁を入れずに丸のまま並んでいます。

 「これは『恵方巻き』といって、節分に食べるといいことがあるんだよ」

 久鬼さん家で恵方巻きをするのはこれが初めてでした。恵方巻きは西方に伝わる節分の行事で、太巻きを一本丸のまま恵方を向いて無言で食べきることが出来たら福を招くことができるという、なかなか条件のキビシイ縁起担ぎなのです。

 ただ、ごーきは今のところ話すことが出来ないので「無言で食べる」という条件は必ずクリアできます。今年の恵方は南南東です。あとは一本全部を食べ切れれば、ごーきの福は招来されるのです。

 「縁を切らないように、切り分けないから丸ごとかぶりつくんだ」

 力丸の説明にごーきはこくりとうなづきました。

 いつものように両手を合わせて「いただきます」のポーズをとります。

 そして、三本の太巻きのうちの一本を両手で持ちました。

 「こちらを向いて食べるんだぞ」

 蘭丸も正しい方角になるように位置を調整します。

 「全部食べ切れなくても、後は引き受けるからな」

 丸ごとの太巻きはけっこう大きくて、力丸と蘭丸はごーきが食べきれるか心配でした。

 「さ、おあがり」

 ごーきはもう一度こくりとうなづくと、大きく口を開けました。

 

 パクリ ごくん

 

 あっという間に太巻きは消えてしまいました。

 「………」

 太巻きを丸のみしたごーきに、(自分たちより月抄さまに似てきたかも…)と力丸と蘭丸はちょっぴりさみしくなったとか。

 こうして今年のごーきの福は、言葉が話せる話せないに全く関係なく、無事に招来されたのでした。

 

 その夜、夢の中で馬ほどに大きい太巻きを父上と一緒に食べながら、ごーきは幸せそうな微笑みを浮かべていました。

 

おわり

 

 

 

                             nononさまから頂いたSSです。
              読んだ瞬間、『可愛いかわいいカワイイ』を連発、PCの前でもだえておりました。
              ほんまにかわええです。げろり(え)とひとのみなごーきくんが愛らしすぎます。
              馬どころが象ほどある太巻きだってひとのみです。月抄ぱぱのお仕込みですもの。
              これで「陽ノス連載復活」の福が招かれますように♪