■□BISCUIT□■
(2002.11.21)

廊下に漂っている甘い匂い。
それに重なるように流れてくる幽かな歌声。

「この歌、聴いたことあるな…」

歌っているのは麗。
彼女の歌声を追いかける、たどたどしいもう一つの歌声。
麗は、その声のために、同じ箇所を行きつ戻りつしている。
もう一人の歌声の主、豪鬼にその歌を教えているらしい。

「あ、あれだよな、この歌。ビスケットが…」
不破が云いかけたところで、一馬が呟いた。
「…ビスケットが粉々になるやつ…」

そう、それはポケットの中のビスケットが増えていく、あの歌。
一馬の発言を聞いた不破と水貴は、ちょっと複雑な顔をして顔を見合わせる。どうもお互い同じ事を考えていたようだ。
そして水貴はその事が気に入らなかったのか、ふいっと横を向いてしまった。

不知火は笑いながら、
「違いますよ。ビスケットが増えていくんですよ」

一馬はちょっと納得いかない風に、
「そうか?俺はてっきりビスケットが割れてくんだと思ってた」
「そりゃ、ポケットの上から叩いたらフツーは割れるわな」
と、自分も一馬と同じ事を考えていたくせに、からかうように不破は云う。

「そりゃ、そうかもしれませんけど」
不知火は笑いながら、
「…このビスケットは『しあわせ』ってことなんですよ」
「えッ?」
かなり突拍子のない意見に、思わず3人は不知火の顔をまじまじと見つめてしまった。
「何でビスケットが『しあわせ』なんだ?」
という一馬の問いに、
「この歌は一つの『しあわせ』を分けあうって意味なんです」

「…だけど分けすぎて粉々になった『しあわせ』なんて、ほんとに『しあわせ』って云えるのかい?」
さっきから仏頂面だった水貴が異議を唱えた。
「何もナイよりは『しあわせ』なんじゃないの?粉粒ぽっちでもさ」
と不破が答える。

「大きさの問題じゃなくて、『しあわせ』が増えていくってことだそうです」

持っている『しあわせ』を分ける。
そして分けられた『しあわせ』は、届いた先でまた分けられていく。
その繰り返し。

「師匠の受け売りですけどね」と、不知火は小さく笑った。
「ふうん」
何となく黙ってしまった彼等の上に、相変わらずあの歌が流れている。


「声がすると思ったら」
麓が笑いながら、台所から顔をのぞかせた。
「今、ビスケットが焼けたところなの。おやつにしない?」

4人は各々に返事を返して、麓のいる方へと歩いていく。
豪鬼の歌っている「『しあわせ』が増える歌」を聴きながら。

 
 

リハビリ気分(苦笑)で、久しぶりに書いてみました。
とりとめのない話ですみませんねm(__)m
お風呂に入ってる時、この歌を近所のがきんちょがお父さんと歌ってるのが聞こえてきて、それが元ネタ。
勿論、「♪ポケットの中には〜♪」って歌、ご存知ですよね?
歌詞の解釈は、大嘘つきなので、信用しないように。
個人的には豪鬼は「声変わり真っ最中」のイメージなので、
かなり音程はアヤシイのではないかなあ。
麗もビスケットは冷ましてから食べましょうね。以上。