■□こんぺいとう□■

(2003.4.13)

 冬にしては珍しく、小春日和の穏やかな日。
 麗はいつものように門から屋敷を出ることをせず、くるりと回り道をすることにした。
 まっすぐ最短距離で砦に帰るには、勿体無いような上天気だ。のんびりと林の中に歩を進めて行く。
 近くに小さな川が流れていて、大きな木のあるあの場所。
 不知火に導いてもらって、霊力を出せるようになったあの場所は、今では麗の気に入りの場所となっている。
 そこを通って行こうと思ったのだが、ふと見ると例の木の根元に座り込んでいる人影がある。

 「豪鬼くん?」

 振り向いた豪鬼のその顔は、いつもと違い口の先が尖っていた。頬まで心持ち膨らんでいる上、麗に
気付いているにも関わらず、視線を合わせようとすらしない。機嫌を損ねている、というのは明らかだ。
おそらく水貴に叱られたか、一馬にどやされたからだと思うのだが…豪鬼がここまで「機嫌が悪い」のは
珍しい。

(困ったな…)

 「拗ねきっている子供」を無視して通り過ぎることも出来ずに、麗は思案してしまう。
こういう状態の豪鬼の相手なら、不破や不知火の方が上手いのに、二人とも何をしてるんだろう等と
考えている内に、麗はある事を思い出し、悪戯っぽく豪鬼に笑いかけた。

「…豪鬼くん、目を閉じて口を開けてくれる?」

 豪鬼は拗ねた顔のまま、それでも麗の云う通りに両目をぎゅっと瞑り、口を開けた。
 その口の中に何かが放り込まれる。
 びっくりして眼を開けた豪鬼の顔は、やがて笑顔に変わった。
 

「美味しい?」

「金平糖だよ」
「…こんぺいとう?」
「うん、さっき屋敷でたくさん貰ったの」

 だからお裾分けね、と笑いながら手に持った袋を見せ、豪鬼の両の掌の中にその中身をあけてやる。
ざらざらっと音がして、見る間に豪鬼の掌の中にこんもりと小さな山が出来る。冬の日にきらきらと光った、
色とりどりの金平糖。
 豪鬼はじっとそれを見つめていたが、顔を上げてにっこりと笑った。

(…良かった。機嫌直ったみたい)
 

 「こんぺいとう」と、その名を確かめるように豪鬼が呟く。
 「そうだよ」と麗が答えると、豪鬼は頷き駆け出した---掌いっぱいに金平糖を乗せたまま。
 その後姿を見送りながら、やれやれといった感じで麗も微笑む。
 本当はこの金平糖は、砦にいる子供たちへのお土産のつもりだったのだが…。

(ちょっとあの子たちの分が減っちゃったけど…いいよね)

 豪鬼の走り去ったあとを見ると、点々と金平糖が落ちている。まるで道しるべのように、金平糖は豪鬼の跡を
辿り、きらきらと光っている。
 豪鬼が皆の処に金平糖を持っていくのが、目に見えるようだった。この金平糖のこぼれ具合では、おそらく…
いや間違いなく殆ど残っていないだろうけれど。

 そんな事を思うと、また笑みがこぼれてくる。
 そして、麗は歩き出した−金平糖の入った袋を持って。

 

 

「お菓子シリーズで」って考えると、どうしても麗が出張ってきます。
お菓子→女の子という単純な発想(苦笑)。
豪鬼の「拗ね顔」は、おそらく一馬の表情を学習したものでは
ないかと(大笑)。一馬って本人は気が付いてなくても、よく拗ねた顔してそうじゃないですか〜。

−金平糖を持った豪鬼は「甘甘」状態な(『ひだまりにて』参照)
不知火と一馬の下に乱入、ムードを粉微塵に打ち砕くこと間違いないでしょう!

…ラストが何だか中途半端o(;△;)o