■□レ・ミゼラブル□■
 (2005.12.17)

たったのパン一つを盗み、5年(正規の懲役)+14年(脱獄の罪)を牢ですごした男ジャン・バルジャンの話。
仮出獄後に、司教から銀の食器を盗み捕まるのだが、神父に「それはあなたに差し上げたもの」と証言され放免、そのことに「これから人間らしく生きよう」と誓う、というのはジュブナイルでもご存知の通り。

実はこれはイントロ。
ついでにジャン・バルジャンが主人公とは云い切れず、原作のタイトル『レ・ミゼラブル(哀れな人々)』の通り、さまざまな人間の、時代に翻弄される人生が描かれているのです。原作は、作者のユーゴーさんのシュミの語りっぽいところが多いので、実際のストーリーは全5巻中で3巻半くらいじゃないかなあ(笑)。さて舞台の方は。

ミュージカル、と銘打ってはいますが、ダンスシーンは殆どなし。
さらに、『普通の台詞』は約2時間30分の上演時間中、片手指で数えられるくらい。数えそくっていたって、両手の指があったら足ります。つまり、全編を通して、歌。
そして照明。暗い。ろうそくの明かりか、ランプの明かりみたいな光度です。ただ、最後のバルジャンの死のところで、ぱあっと明るくなったのは、バルジャンが本当に自由になったことを表しているのかもしれません。照明も演出の一つなのかも。
舞台は展開が早いです。割とまったりした展開の原作をさくさく動かしてます。
展開が速いのには、回り舞台の多用があるかも。ほんとまわってまわってまわってまわるぅ〜な、舞台でした。
舞台前方の跳ね上げ床の使い方が効果的でした。
人間関係も、舞台展開上で特に述べる必要のない部分は、ばっさり切られています。

例としては、ファンチーヌがなぜ父なし子を産み、それをティナルディエに預けたか。
ティナルディエとマリウスの関係や、ティナルディエとがブローシュの関係など。

 

では舞台。
今回のジャン・バルジャンは、トリプルカルテットのうちの一人、今井清隆さんです。
どうだろう、と思っていましたが、しっかりとした歌声。ただ小柄なので、ジャベール(長身)と並ぶときついかな。
小柄ではありますが、ファンチーヌをお姫さま抱っこするシーンは軽々でしたし、傷ついたマリウスを背負って歩いてましたし、凄い。

ジャベールは全編通して、良かったと思います。
彼の着ていた細身の黒のロングコートに憬れます。
「あのおまわりはヌケている」とエポニーヌが云う通り、悪事未遂の小悪党一味をとっちめている間にバルジャンが逃げ出した事に気付かない(笑)。ヌケてるよ。よく警部になれたよあんた。
あとですね、彼は最後に自殺をするわけですが〜その時の照明がもうものすごく暗い。ジャべどこよ?って位に暗い。
同じ死のシーンのバルジャンとは対照的です。自分の生に満足した者と、自分の生に絶望した者との対比なのか。
舞台中、歌に始終「主よ」という言葉が出てきますし、司教も登場するところから、カトリックの心、というのが根本にあるのかなあとも。カトリックでは自殺は罪ですから。

ファンチーヌ。
いきなり不幸全開なキャラ。
仕事場は首になり、髪を売るわ娼婦に堕ちるわ、ついには逮捕されるわ。
はかないイメージもあるのですが、お声がしっかりしているせいか、芯はしっかりしてるぞ、なファンチーヌにも思えました。

あの『I dreamed a deam』はやっぱりイイ・・・!

 

リトル・コゼット。
ひとこと。
暗い森の中で知らないおじさんに声をかけられても、ついていってはいけません。いけませんったらいけないのよ。

 

エポニーヌ。
ありがちといえばありがちなんですが。片思いの相手に「好きな人が出来たから協力して」なんて云われちゃう人。子役時代の可愛らしい衣装が、成長後はぼろ服に変わります。砦シーンのコートはぬくそうだ。
あんなにぶちんの男にほれたのが彼女の不幸だと思いましたね。
『On my own』はいいですねえ・・・。

 

コゼット。
なんかね、印象薄い。役者さんがどう、ということじゃないんだと思います。
彼女はティナルディエの家で虐待された記憶をきれいさっぱり忘れているので、エポニーヌやティナルディエを見てもわからない。
ひたすらパパと(一目ぼれした)マリウスだけの世界に生きてます。バルジャンに「どんな子供だったか教えて、わたしはもうおとなよ」と云ってはいますが・・・。

 

マリウス。
こいつはにぶい。にぶすぎるッ!自分の恋心には敏感なくせに、他人のそれはわからない。もういっそ国宝級の鈍さだよ、キミは。
その鈍さが結局エポニーヌを死に至らしめる原因だったんですが、本人は気付かず。『金持ちじゃないかもしれないが、ええとこのぼんぼん』という印象。お嬢コゼットとは似合いかもしれないが、きっとコゼットは苦労すると思います。

 

アンジョルラス。

実はこっそり期待のキャラ。だって原作じゃ『カリスマ性のある絶世の(ここがポイント)美青年』ですよ、あんた。革命を指揮する絶世の美青年。いいやーーーん。
---ルックスについてはさておいて。お声がいまひとつ好みじゃなかった。決して下手とかではないのです。好みの問題です。
なんとなく、今回のマリウス役とアンジョルラス役の方を入れ替えたらどうだろう、とも思いました。

 

ティナルディエ夫妻。
ゴング桑田さんと瀬戸内美八さん。なんかうっすらと瀬戸内美八さんのヅカ舞台を観たような観なかったような、薄ぼんやりした記憶があるんですが。確か端正で上品な感じの男役でらしたと思います。この二人がいちばんしたたか。生命力も段違い。
どんな時代でも最後に笑うのは生命力のある者なのかも。それが悪党でも。
1幕の最後に楽しそうに床の跳ね上げ窓から顔を出して歌うのが印象的。最後の男爵夫妻にばけているシーンも。

 

ガブローシュ。

前述の通り、舞台では改めて説明はありませんが、ティナルディエの息子。子役ががんばります。原作よりは、若干年齢を下げられている気が・・・。しかし見せ場のある美味しい役。酒場に登場のシーンでは、たむろしている学生の一人が、ガブにつきっきりでした(笑)。階段から抱きおろしてやるわ、椅子に座らせたり酒を呑ませたり。こどもに酒を飲ませてはいけませんね。酒場を出るシーンでもしっかり横で。

 

アンサンブル。
工場の冒頭がちょっと不出来で、あとを心配しましたが、持ち直したようです。あれが今回だけなのか、いつもそうなのか。
歌がなくても、こまごまとした動きをみせてくれます。戦いの中、「眠らずに戦いの準備を」というアンジョルラスに従って、それぞれ動いているところ。子供のガブローシュは寝てしまうのですが、それに毛布をかけてやる。勝ち目の薄い、明日の命もわからない戦いでも、そういう温かさが残っているんだなあとか。
あと歌詞。今まであまり聞かないストレートな歌詞で(笑)。
そうですか、ズボンのあそこがああで、そよ風吹いてもこうなんですね(大笑)。

砦の上でアンジョルラスが旗を振るシーン。
あそこは「ああ」と。以前、劇団四季の『クレイジー・フォー・ユー』で、酒場の椅子やテーブルを組み上げてその上で旗を振るシーンがあったのです。パンフレットには確か「同時期人気のあった『レ・ミゼラブル』のパロディのシーン」と。観てる人にはわかる洒落だったようですが、わはは、ようやくわかったよ。

旗といえば。
終幕近くに1階客席で大きなフランス国旗が振られているんです。
どのあたりで振っているのだろうか。

予定外アンコールは3回?4回?
いきなり舞台に花をまき、それを出演者が全員拾い(中には拾いそくる人、多めに拾っちゃう人あり)、客席に投げるのですが〜花だよ?とばないって。殆どオケピにおちていたようです。


という一回目の観劇。
『レ・ミゼラブル』は、あと2回観ます。残りは山口祐一郎バルジャン。楽しみです。
その分の感想は
こちらから。